なごんのエンタメ

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横尾忠則『言葉を離れる』感想。文章が素敵! いい!

そこそこいいエッセイ集ですが、ちょっと読みにくい。
私には難しかったです。

はじめの20ページくらいまでは「なんだこの読みにくい文章は」「いやあ、退屈だなあ」と思ってました。

ですがさらに読み進めると、ググ、グググーーー! と横尾忠則の世界に引き込まれ、うっとりさせられました。

読みにくいとこもありますが、素敵な文章なんです。優しいような、なんというか、幻想的というか、いい感じの文章なんですよ。

後半はそんなに好きじゃなかったし、途中は「ふん! ただの自慢話じゃないか!」なんて、横尾さんの華々しい経歴にムッとしたりもしました。

でも絵画について語ったとこなど、「素敵だな」と思う箇所が多々ありました。


概要

簡単に説明すれば「横尾忠則の自伝」的な内容で「私は全然本を読んでこなかった。だがかわりに絵画から無数のものを得てきた」と、こんな感じの内容です。

ちょっと『言葉を離れる』から引用してみましょう。

ピカソも読書にはそれほど興味がなかったようです。だけどフェリーニもウォーホルもピカソも、実にユニークで知的な作品を作ります」

とあります。続いて

「多くの知識人が読書によって自己が形成され、読書こそ人生の目的、人生そのものであると手放しで読書の重要性、功徳を説いています。

では読書と無縁に生きた前記の芸術家達の人格は一体どこで何によって形成され教養を得たのでしょうか。ぼくが興味を抱く点はここにあります」

横尾さん自身も、45歳辺りから読書に興味を持ったようです。

でもそれでも全然よかったよ。
いっぱい面白い人にあったもん、と。

ちょっと読みにくいですが、引用するので読んでみてください。素敵ですよ。

「このようなことを思う時、ぼくは多くの人から読書では得られない非常に貴重な体験を得たように思います。

 

そしてこの得難い体験はぼくの無意識の蔵にきちんと整理されて保管され、ぼくが創造の現場に立った時、または人生の岐路に立った時、霧の中からその全貌を現してくれるように思うのです」

詩みたい。素敵。


好きなところ

正直、どこが好きって、ぱっと言えないんですよね。文章が好き!

独特の文章で、魅力的な世界観を見事に作り上げていると思います。

あと文の前半は「、」があるのに、後半はなくて一気に言う感じ、っていうのかな、それが好きでした。

ちょっと引用してみます。

「普通はどんな目的で読書に親しむのか知りませんが、読書の興味に乏しかったぼくからすれば、どうしてあんなに時間の食われる作業に没頭するのか、

 

面倒臭がり屋のぼくのような性急な性格は本来読書に向いておらず、読書に搦め捕られる時間のことを考えると勿体無いと思っていたのです」

この続きの文章が本当に素敵だと思います。

「人間の眼はあんな抽象的な記号の行列の上を滑らすためにあるのではなく、もっとこの世の美しいものを眺めるために神が与えたもので、

 

そのために肉体が存在しているんですから、

 

他人が見たり聞いたり考えたことに依存などしないで自分の眼と足で自由に出かけて行って他人が読書で経験した以上の成果を自らの肉体に移植させた方がずっといいんじゃないでしょうかというのが四十五歳になるまでのぼくの愚考でもありました」

確かにと納得できる感じと、読書ばかりな人に対する警鐘的意味もあり、なにより素敵な文章です。


また「本を読むことだけが勉強じゃない」と、こう言うとつまらない意見に聞こえますが、絵を模写することからもいっぱい学んだよ、なんてことも言っています。

「模写によって何を得たか? それは観察する技術です。目を通して事物を見るというのは、すでに観察行為なのです」

この続きが画家らしい。

「ぼくは人と話していても相手の顔の造作を隅々まで観察し、脳内の見えないキャンバスにその顔の形を移植する習慣がいつの間にかできてしまっているので、物を見ることと書くことを同時に行っています。

具体的に絵を描かなくても頭というか心のなかに観察した対象を幻の絵として内蔵させているつもりです。

だから見ること一瞬一瞬が絵の制作だと言えます」

 

かっこいい!
美術に憑りつかれたい! と思ってしまいます。
すごいなあ、一流の絵かきは。

「真似ることと学ぶことが同意語とすれば森羅万象が学びの対象、つまり読書ということにならないでしょうか」

 

FU--! 言うことがかっこいいぜ。

また運命についても書いていますが、その辺りはそんなに好きじゃないですね。


また「買書の心得」、p67になるんですが、そこではこんなことを言っています。(買書は本を買いはするが、読まないことです)
ここすごく好きですので、引用します。読んでみてください。

「ぼくの趣味は読書ではなく買書だとはたびたび言ってきました。ところが買書も一種の読書ではないかと思うのです。

読むだけが読書ではなく料金を払って所有することでその本のイメージを買ったのです。

買うという行為を通さなければ、読書の入口に到達したことにならないのです。本を手に取って装幀を眺めたり、カバーを取りはずしたり、開いた頁の活字に目を落としたり、時には匂いをかいだり、重量を感じたり、目次とあとがきと巻末の広告ぐらいは読みます。

そして本棚に立て、ほかの本との関係性を楽しんだり、その位置を換えてみたりしながらその本を肉体化することで本に愛情を傾けていきます。

ぼくにはこうした本に対するフェティシズムがあります。わが本棚には数え切れないほどの本が読まれないまま長年眠っています。そんな本の背を読んだり、位置を取り替えたりしながら、目垢をつけることで本の物質感を堪能するのです」

 
フフ、なんだかいいでしょう。
可愛いんですよ、この人の書く文章も、内容も。幻想的っぽいものも感じるんですが、私だけでしょうか。

最初から最後まで面白い、とは思いませんでした。
途中、ニューヨークの美術館に作品が展示されたとか、あと三島由紀夫とのエピソードとか、色々出てきますが、そのあたりはつまらないです。

というか、中盤は、ほとんど自慢話に聞こえ、とりえのない自分はただムッとしていました。

難易度:☆4つ

面白さ:☆3つ

って感じでしょうか?

 

ある程度本を読んでいれば、私よりももっと楽しめて、十二分に彼の世界に浸れるかもしれません。

文学的教養がもっとあればなあ……。