なごんのエンタメ

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田中慎弥「共喰い」「第三紀層の魚」感想

 

2011年度の芥川賞受賞作です。

二回読みました。
ちょっと難しかったことと、私の理解力不足で、最初は「退屈」「もっと頻繁に改行しろよ」と思いました。

ですがちょっと経って読み返してみると、超いい! 「共喰い」では特に、時間がよくわからなくなる……ってシーンが良かったです。

また第三紀層の魚」はかわいい小説でした!

一回目と二回目の感想を、あわせて書きたいと思います。

 

はじめて「共喰い」を読んだとき

このときはさっぱりわからず、眠気と戦いながらの読書となりました。

難しかった!
めちゃめちゃ読みにくかったです。

一文一文が長いし、ぜんぜん改行ないし……

引用するとこんな感じなんですよ。

「白焼の鰻や三人分のそうめんと一緒に琴子さんが座卓へ運んできた下ろし生姜が父に全部使われてしまわないうちに、遠馬は素早く箸で取ってめんつゆの中に溶く」

これで一文です。

「うわ……」ってなりませんか? 読みにくいよ。辛いよ。

この文に続けて、さらにこう続きます。

「焼いてある肝を指でつまんで口へ入れ、飴玉みたいに舌で転がしてから噛み砕き、呑み込んだ父は、皿に載った冷たい白焼の上に生姜を山盛りにし、そこへしょう油を注ぎ、鰻の身が見えなくなるくらいまで広げ、一切れを箸で持ち上げると、生姜がずり落ちないように一口で食べてしまう。」

なんだか「うわああああーー!」ってなっちゃいました。面倒くさいよ! 長いよ!

こんな文章だから読みにくいと思ったんです。

ただでさえ文学は苦手なので、この「共喰い」は、ハードカバー版ですらたった73ページなのに、5時間くらいかかったんじゃないかな。

 

よかったところ

そんな一回目でも、「いいなあ」って思うシーンがありました。
引用します。

 「さっき始まったばかりの新しい雨漏りの染みが木目とつながり、長く張り出す形で天井の色を変えている。」

やっぱり一文が長くてつらいですが、続きを読んでみてください。雨漏り、ってだけで、個人的には昭和のにおいを感じてなんだか「いいな」って思ってしまう。

「半日ほども天井を見つめていたかと思う時間が過ぎたあと、雨とは違う、泡が噴き出すのに似た水音がしたので庭を見る。

地面と雨が混じり合った泥が浅く渦を巻き、その中から、胴周りが大人の腕ほどある大きな鰻が一匹、胸鰭を植物の双葉のように広げ、頭をゆっくりと左右に振って出てくる。」

洪水になっているんです。
またこの文から2p半ほどして

「その雨と川との違いがなくなりかけている水の表面を、祭りの夜店で出す筈だった魚が逃げ出したのだろう、金魚の一団が流されている。」

それから数日たちます。すると

「この間まで川底にあったものは綺麗に押し流され、代わりにどこからか流されてきた、やはり折れたり曲がったり錆びたりしている自転車や傘やバケツが水面に顔を出し、蟹や船虫の棲家になり始めていた。」

ここは好きでした。

ただ、文学がただでさえ苦手な私には、いくらなんでも難しすぎました。

ちょっとだけ、面白かったかもしれませんが、正直に言えばぜんぜん分かりませんでした。
一回目は、もっと改行入れたり、「。」をいっぱい使えばいいのに! なんてぼやきながらの読書でした。

「共喰い」と「第三紀層の魚」っていう二つの話が入っているんですが、共喰いだけでギブアップ。

芥川賞受賞ということなので、素晴らしいところがたくさんあるんでしょうが、私には難しすぎてまだまだでした。

 

ですが、二回目は違いました。

二回目に読んだのは、一週間後くらいじゃなかったかな? 本当にすぐでした。

何で読み返したのかっていうと、「読んだけど、さっぱりわからない」って小説がほんと多かったからです。

また自分はつまらないと思ったけど、世間は面白いと言っている……。その秘密を知りたい! と思ったんです。

そこでネットで調べたところ、いくつか書評のようなものが出てきました。

それを読みましたがやっぱりよくわからなかった。
わかったのは、自分はつまらないと思ったけど、評価してる人は大勢いるってことでした。

 

二度目の挑戦。

読み方を変えてみました。

意識的に、しっかりと想像しながら読むってことをやったんです。

そうしたらすごく情景が浮かぶ。

国道でバスを降り、古い家屋や雑居ビルに挟まれた細い道を抜けると、幅が十メートルほどの川にぶつかる。流れに沿って歩いてゆく。潮が引いている。浅い水を透かして黄土色の川底が見える。形も大きさもまちまちの石、もし乗れたとしても永久に右に曲がることしか出来そうにない壊れた自転車、折れた骨をほほばしらのように水面から突き出している黒い傘、錆びてほとんど形がなくなっているのに朱色の持ち手だけは鮮やかなままのブリキのバケツ、板塀の切れ端、砂を呑み込んで膨らんだビニール袋、などが川を埋めている。鯔の子が塊になって泳いでいる。岸の泥には大きな蜘蛛の群れのように鳥の足跡が散らばり、嘴で餌を探したらしい部分には黒いへどろが見える。

いままでただ読んでました。でも想像するってことを意識して読むと、情景が細かくよく浮かびます。

ただ読んでも情景が浮かぶ小説が多いですが、これはこっちから近寄らないとダメだってことみたいでした。

話の筋をありありと覚えてたので、そういう意味では楽しさは減りましたが、以前読んだ作品とはまるで別物でした。

あと時間の感覚が曖昧になってしまう、ってところもよかったです。

不思議でもなさそうなことをそう感じたのは、濡れ縁の蝸牛を見てからいままで、いったい何日経ったのかよく分からないかららしかった。ほんの何時間かのことかもしれない。現に目の前には、まだ蝸牛が這っている。夢の中のことだったろうかと思ったが、アパートから降りてきたところで、川の向こうの仁子さんが遠馬の代わりに右腕で竿を抱え、上下をひっくり返し、リールのハンドルを左側に持ってき、それを反対に回して糸を巻き取る姿をはっきり見た記憶がある。

このあたり。
結構好きですね。

二作目の短編「第三紀層の魚」もよかった。
こっちは結構エンタメです。
主人公の男の子がけなげでかわいい子でした。

はじめは「共喰い」が難しかったので、どうせ分かりっこないと読まなかったんですが、いやあ、よかった。
エンタメとして楽しめましたよ。

こっちは「共喰い」と違って結構読みやすかったです。
「共喰い」のせいで読みやすい、読みにくいってのがマヒしてた可能性もありますが……。

第三紀層の魚」の最初は、「なんだ、介護の話かよ」なんてテンション低めで読みだしたんですが……、途中からめちゃめちゃ面白くなりました!

品のない釣り人と、主人公の少年の交流みたいなものがちょっと良かったです。

またお母さんのキャラもよかった。
ですが「共喰い」ほど、ガツンとは来なかったかな。
第三紀層の魚」がそういうタイプの話だから、しょうがないのかもしれませんが……。